連載「uncommon life」05、06、07、08、
短編小話「blazing sparks3」を更新しました。
今回のポイントは、ヒョウは喉を鳴らすのか、ですね!
次回更新時にサイトをリニューアルしようと思い、現在大奮闘中です。
こだわりだすと、キリがないですね……。
調整のためにサイトやブログのレイアウトが崩れる瞬間があるかもしれませんが、
その時は早く元に戻そうとがんばっている最中かと思いますので、
あたたかく見守ってやってください。
そして、今回は初心に戻って原作初期設定のおまけです。
□つづき□
「それで必要になってくるのが───」
「さっきの公式か!」
なるほどなるほど、と高耶は答えを書き込んでいく。
近々試験があるとかで、高耶は旅先のホテルにまで参考書を持ち込んでいた。
「あのバカ教師も、こうやって教えてくれりゃあわかるのにな」
それは直江の教え方がうまいということだろうか?
だったら素直にそういえばいいのに。
「そこらの教師に真似なんてできませんよ」
直江は少し自慢げに言った。
「おまえほど頭がよくないってか?はいはい」
高耶は半眼になって取り合わない。
「そうではなくて。あなたにどう言えば正しく伝わるか、何と説明すれば理解してもらえるか、そのことを私は誰よりもよく知っていますから」
「…………」
「四百年かけて培ったものを、簡単に真似されてはたまりませんよ」
「………ふうん」
急に大人しくなった高耶は、納得とも不満ともつかない顔で、返事をした。
□ □ □
「……やっちまった」
起床予定は午前六時半。けれど時計はすでに八時近い。
もちろん、ツインルームのもう片方のベッドに、直江の姿はない。
ふと、昨晩の出来事が蘇った。
『まだ、起きていたんですか』
事後処理を終えた直江は、深夜になって帰ってきた。
先に帰った高耶はとっくに寝たものだと思っていたようだ。
『朝、起きられなくなりますよ』
『ガキじゃあるまいし。へーきだって』
『まあ、明日は多少寝過ごしても大丈夫ですから』
『だから、起きれるって言ってんだろ』
『はいはい』
「くそ……」
急いで服を着替えながら、絶対何か言われるなと思っていたら、案の定、直江は部屋に
戻ってくるなり、
「おや、ずいぶん早起きですね」
と、声をかけてくる。
「……起こせよ」
「起こしましたよ」
「うそつけよ」
「本当ですよ」
真顔だった直江の表情が、こらえきれずに緩みだした。
「なんだよっ」
「いいえ。さすが、大人は違いますね」
「うるせぇっ」
高耶は脱いだばかりのスウェットを、直江に向かって投げつけた。
□ □ □
「え、今から学校ですか?」
調伏旅行を終えて松本へと送ってきたら、高耶が学校で降ろせと言い出した。
時刻はお昼をとうにまわっている。
「しょうがねえだろ。出席日数、マジでヤバいんだから」
旅行カバンに制服を詰め込んで来ていた理由がいまわかった。
「優等生は大変ですね」
すかさず皮肉る直江を、高耶はもう怒ったりしなかった。
「………いい加減慣れたけど。あ、校門にはつけんなよ」
「どうしてです?」
「また、へんな噂が立ったら困る。ここでいいから」
校門から随分離れた場所で車を停めさせた高耶は、後部座席の荷物を掴んで
外に飛び出すと、じゃあな、と走って行ってしまった。
いったい以前にどんな噂が立ったのか多少気になりつつも、直江は黙って
その後姿を見送った。
□ □ □
「やはりか……」
『まあ、あいつも昔は深志の仰木とかいって有名だったみたいだから?ヤクザに
送り迎えさせてるなんて噂が立ったとしても、自業自得だと思うぜ』
どうしても高耶の言っていた噂というのが気になって長秀に電話をしてみたら、やっぱり直江がその筋の人間と勘違いされてしまっていたらしい。
「それで教師とも折り合いが悪くなっているのか」
『それでかどうかはわからんけどさ。とにかくアイツ、これでもかってくらい
反抗的だからな』
まるでそのことを楽しんでいるような口調で長秀は話す。
『どうしちまったのかね、景虎は。まるで怨霊大将に戻っちまったみたいだな』
「……………」
確かに、冷静沈着、全ての物事の先行きを読んで判断を下していた景虎とは違う。
すぐに感情的になるところは、出会った頃の景虎を思い出させなくもない。
(つまり、こういうことだ)
記憶を封じた彼が感情的な性格だというのなら、冷静沈着な景虎はその感情を
経験値で押さえ込んでいたということだ。
『直江?』
「……ああ。とにかく噂があまりに酷くなったら言ってくれ。俺が出向いて違う
ことを証明する」
へいへい、過保護なこって、という千秋の軽口を聞きながら電話を切った。
□ □ □
「あれ、フェラーリじゃない?」
「えええ?なんでこんなとこに?」
HRが終わってもすぐに教室を出る必要のない帰宅部の生徒数名が、
窓に張り付いて口々に何かを言っている。
千秋はなんとなーく嫌な予感がして一緒になって窓辺へ立った。
すると校門のところに、異様に派手な車が停まっている。
やっぱりそうだ。
「あのバカ……。やることが極端すぎんだよ」
振り返って、授業中からずっと机に突っ伏して眠ったままの高耶の
耳元で怒鳴った。
「おーぎくんっ!」
「………あ?」
「お迎えがきてんぞ」
「………は?おむかえ?」
「いいから見てみろよ」
千秋に言われるがまま外を覗いた高耶は、
「げえええええええっ!」
と奇声をあげた。
「直江!」
「高耶さん。お疲れさまです」
のんきに挨拶をしてくる直江を、
「いいから、さっさと行くぞっ」
と急かして車に乗りこんだ。
橘家のセカンドカー、フェラーリ・テスタロッサだ。
確かにベンツもアレだったが、これではもっとアレだ。
さっさと発進しろと命じながら、高耶は悲鳴をあげた。
「ったく、おまえはオレをどうしたいんだよっ!」
「たまには、いいでしょう?」
よくない、と怒鳴りたかったが、事情を千秋に聞いたから怒ることも
出来ない。
高耶が周囲に受けている誤解を、わざわざ解きにきてくれたのだ。
「いつも同じでは、飽きてしまいますし」
そういう直江自身も、いつもの印象とはだいぶ違う。
ダーク系のスーツではあるのだが、カラーシャツにタイはしておらず、
いつものかっちりとした格好ではなかった。
(けど………)
いつもの白シャツなら葬儀屋かヤクザ者で決まりだったのだが、これで
はますます正体不明になってしまっている。
青年実業家というほどがっついた感じはなく、水商売人にしては爽やか
過ぎる。
もちろん学生には見えないし、サラリーマンにだってみえない。
「………なあ、今度は坊主の格好してこいよ」
と言うと、
「袈裟でフェラーリ、ですか……?」
とぼけ顔で言われた光景を想像してみて、高耶は笑える、と爆笑を始めた。
直江はそんな様子を、微笑ましいとばかりに見守っている。
「昔のあなたは、そんな風に笑ったりはしなかった」
「………だからなんだよ」
「ずっと、笑っていて欲しいんですよ」
直江は静かに言う。
「あなたの感情に触れるのはとても心地がいい」
高耶は何て返事をしていいのか、とまどってしまった。
そんな様子に気付いた直江は、
「感情を、溜め込まないで欲しいと言いたかったんです。私でよければ
いくらでも相手になりますから」
取り繕うように笑って言う。
だから高耶は、
「溜め込めるようにできてたら、ヤンキーなんてやってねーよ」
と、笑い返した。
長い上にネタが被りがちに……っ。
皮肉を言う直江がすごく好きなのに、
なかなかスムーズに言ってもらえません。