すっかり遅くなってしまいました!
すみません><
まずは下記サイトのブログにてお知らせです!
そして突然思い立った連載、「uncanny people」の前編分を更新しました。
ということで、連載とは名ばかりの前後編です^^;
短編と呼ぶにはちょっと長いし、連載するには短いし……。
なので全二回連載という手段を選びました!
ではでは、おまけはいつも通り適当な感じで!
□つづき□
現代には、おもしろい勝負のつけ方がある。
「じゃ~~んけ~~んぽん!!」
アジトの中の洗濯機やら乾燥機やらがずらりと並ぶ一室で、白い作業服を着た男たちが勝負の行方に一喜一憂していた。
「おっしゃあああっ!!」
「があ~~~~~っ!!やられたちや!!」
実は彼らは、アジト内のクリーニングを一手に任されている『洗濯班』の者たちだ。
少し前まで衣服の洗濯は、隊士たちが各自好きなタイミングで行っていたのだが、それではあまりに効率が悪いということになり、つい最近、洗濯は全て彼ら『洗濯班』の手に任されるようになった。
発足当初はいきなり洗濯係などに任命されて少し卑屈になっていた『洗濯班』の面々だったが、しばらくして自分たちにはある特権があることに気付いた。
あの"仰木高耶"の汚れものを洗い、乾かし、本人に直接届けに行くことができるのだ。
いま彼らが行っていたじゃんけん大会は、洗い上がった衣服を高耶の元へ届けに行くのは誰にするかを決めるためのものだった。
「ほいたら、行ってくるき!」
幸福な役目を勝ち取った元一両具足の筋金入り隊士が衣服の入った袋を持ち上げると、第二次大戦中に亡くなったという比較的若い隊士があることに気付く。
「………あれ?前回んときもあんたが持ってかなかったっけ?」
「───チッ。気付きよったか」
「おまんっ……!二回連続はいけん決まりじゃろうが!」
「おーい!こいつ、前回んときも届けたらしい!」
「なにぃ!?ほいたら仕切りなおしじゃ!」
再び部屋の中央に集まった10人にも満たない白い作業服の男たちの熱気は、乾燥機にもアイロンの熱にも負けないものがあった。
□ □ □
隊士の中には、戦闘や演習で汗をかかない限りは風呂に入らなかったり、一週間同じ服でも平気な顔でいられたりする者もいる。昔は湯にも頻繁には浸かれなかったし、今ほど洗濯も盛んではなかった。まあ、仕方がないことかもしれない。
けれど仰木隊長は毎日風呂に入り、毎日着替えもする。
さすがにそこは、現代人だ。
そしてもうひとり。
赤鯨衆には洗濯にうるさい現代出身の人間がいた。
「おいっ!!俺のは○ウニー使えって言ってんだろ!!」
入るなり大声で怒り始めたのは現代霊である楢崎毅だ。
「うるさいのう。そがいな面倒臭いことは自分でせい」
「俺が自分でやるっつったら、"わしらを信用出来ん言うがか"って怒ったじゃねーか!だから任せてやったってのに………!」
必死にくってかかっているのに、あーうるさい、うるさい、と無下に扱われた楢崎は、うなだれながらぶつぶつと文句を言っている。
「駄目なんだよ、俺。服が汗臭いとさあ。テンション上がんなくて………。───あ、そういえば」
何かを思い出したらしく、顔をあげた。
「知ってる?宿毛の橘ってやつ」
「なんじゃ」
「あいつ、服は使い捨てらしいぜ」
「……なぁにぃ?」
「きっとお前らが信用できないんだろうなあ~……」
意地悪く言う楢崎の横で、洗濯班の面々の眉はみるみるうちに吊り上った。
□ □ □
「ここへ来るように言われたんだが」
そう言ってやって来たのは、黒い服を着た長身の男だった。
「おう、おまんが橘か」
「……そうだが」
『洗濯班』総出で取り囲むが、身長差があるせいかあまり威圧感は与えることが出来ない。
「あんた、その服が汚れたらどうするつもり?」
「………?」
「捨てるつもりじゃろう」
「何が言いた───」
「そがいにわしらが信用出来んがか!?」
「現代人のハイテク洗濯術は、わしらには真似できんと思うちょるがか!?」
全員が口々にひどい剣幕で言い立てて、口を挟ませてもらえない橘は、見かねて驚くべき行動にでた。
「何しちょる!?」
なんと上着を脱ぎ始めたのだ。
黒いシャツを手に持って、それを突き出してくる。
「洗いたいのなら洗え」
「───……」
「………おんし」
洗濯室の空気は一瞬にして鎮まった。
誰もがその露出狂じみた行動ではなく、露わになった橘の上半身に言葉を失っている。
多種多様な傷跡が無数にあり、それが橘義明という男が単なる現代人でないことを物語っていた。中でも一際左胸の傷が目立っている。
橘はそれを隠すかのように腕組みをすると、大きな木製のアイロン台に寄りかかった。
「どうするんだ」
思わ顔を見合わせた隊士たちだったが、話し合わなくともすでに結論は出ていた。
「……じゃあ、やる?」
「おう、橘はそこで待っちょれ」
「ああ」
おもむろに動き出す面々を見守るようにしていた橘は、やがて落ち着いた頃になって訳を話し始めた。
確かに衣服を捨てたことはあるけれど、それはその衣服が毒に汚染されてしまっていて、きっと洗っても駄目だろうと判断したからのことだったそうだ。
「毒……。そんなものを使ってくる敵がいるのかあ」
「おんしも大変じゃのう」
「……まあな」
少しだけ洗濯室内が和やかなムードになったところで、思わぬ客がやってきた。
「何やってる」
自分の洗濯物を持ってきた、仰木高耶だ。
彼は自分の毒のことを配慮して、汚れた衣服を共同のランドリーボックスには入れないようにしている。
「隊長」
橘がアイロン台に寄りかかるのをやめて、姿勢を正した。
「おまえ、服は?」
「今洗濯を」
「じゃあ、何か別のを着てろよ」
「あいにく着替えは持ってません」
「安心しろ!もうすぐ乾燥機から上がってくるきの!」
せっせと働く隊士たちを一瞥した仰木は、彼らに背を向けて何か小声で話し出した。
「あんま、人に見せんなよ………それ」
「何故です。見られて困るようなものではありません。これが私です」
「いや、それはよくわかってんだけどな……」
いいから言うこと聞けよ、と言いながら、仰木は手近にあった毛布を橘に手渡した。
□ □ □
仰木高耶の着た衣服は、他の隊士たちの衣服とは違う扱われ方をする。
それは彼が特別だからというわけではなく、彼の着た服には少なからず毒素が含まれているからだ。
洗濯をするときも決して素手では触らないようにしなければいけないし、中川掃部が開発した毒抜きの洗剤で三度は洗わなければいけない。
それでも長く着ていると落としきれない毒素のせいで服の繊維がぼろぼろになってしまうのだ。そしてそれも毒を含んでいるため、そこら辺のごみ箱には捨てることができない。
だから中川の指示で、月に一度不要になった仰木の服を焼却処分することなっていた。
それも『洗濯班』の大事な仕事のひとつだ。
しかし以前、焼却されるはずの仰木の衣服が裏で高値で取引されて出回ってしまい、そのせいで中毒患者を出してしまうという事件があった。
それ以来、焼却処分にはかならず仰木も立ち会うことになっている。
つまり、焼却処分の担当者は服が完全に燃えきるまで、仰木高耶とずっと一緒にいることができるのだ。
今日はその月に一度の日。
またしても盛大なじゃんけん大会の結果、至福のポジションを手にすることができたのは、例の大戦中に亡くなったという若い隊士だった。
彼が火の準備をしながら裏庭で待っていると、じきに仰木がやってくる。
手には大きな紙袋をぶら下げていた。
「今月はこれだけだ」
「じゃあまずリストを作りましょうか」
「悪いな」
「いえいえ」
ウキウキ顔の隊士は、処分漏れが無いように作る決まりになっているリストを作成するために、手袋をはめて衣類を物色し始めた。
「あれ、破れてる。これまだ新しくないですか?」
「わるい、戦闘中に……」
「あ、こっちもおろしたてだ。なのにボタンが全部取れてる……」
「……………」
自然に取れたという感じではなく、どうみても引きちぎったような感じだ。
高耶は何だか気まずそうな顔で黙り込んでいる。
何か説明できない事情があるのかもしれない。
(秘密任務とか……?)
だから気を使って言ってあげた。
「今月もここと前線を行ったり来たりで忙しそうでしたもんね。けど、戦闘には古い服着てったほうがいいですよ。きっと調達班が文句を言ってきます」
「………よく言っとく」
「言っとく?」
「いや、よくわかった」
そう言い直した高耶の横顔は、怒っているような、あきれているような、反省しているような、微笑っているような、複雑な表情だった。
□ □ □
「いったい何を隠してるんです!」
「……直江」
「嘉田には言えて私には言えないと言うんですか!」
「いずれわかる」
「いずれとはいつです!……どうしても言わないというのなら力ずくで───」
「ちょっとまった!!」
「───はい?」
「ちゃんと脱ぐから!やぶんな!」
「……え?」
「─────っと。ほら、これでいいだろ!」
「………ええまあ。随分積極的なんですね。したかったんですか」
「ちが……っ!おまえが服をやぶるからだな、オレが───」
「まったくあなたというひとは……素直じゃないというかなんというか」
「おいっ!聞けって!────あッ……」
ん……?長すぎ……^^;??