忍者ブログ 不立悶字(ふりゅうもんじ)

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連載を更新
連載「uncommon life」14、15を更新しました。
ninjaさんのメンテ、長引いていたみたいなので、
更新できないかも、とドキトキしておりました^^;

ではでは、前々回がねーさんだったので、今回は千秋先輩です。
つづき
   ばきぃぃっっ
 きゃーと教室内の女子から悲鳴が上がる。
 頬に鈍い痛みを感じながら吹っ飛ばされた千秋は、背中を黒板へと打ち付けた。
「……ってえ」
 とっさのことで何が起きたのかわからない。
「田中さんが……田中さんが……お前を好きになったから別れるって………っ!」
 目の前で、見たことも無い男子生徒が腕をプルプルと震わせている。
 どうやら彼が自分を殴ったようだった。
「これでチャラにしてやるっっ!ありがたく思えよっっ!」
 男子生徒はそう捨て台詞を吐くと、バタバタと教室出て行った。
「……誰だよ、田中さんって」
 身に覚えのない千秋は、ズキズキといたむ頬を押さえる。
「言いがかりにもほどがあるだろ……」

 □ □ □

 幹線道路が混んでいたため、細い裏道を行くことにした千秋は、小さな十字路で一時停止をした。すると。
   ドカッッ
 鈍い音ともに、恋人(レパード)の後ろへ自転車が突っ込んできた。
 自転車はぶつかった拍子にこけたらしい。
「いったたたたた」
 年配の男性の声が聞こえてくる。
 自分に非はまったくないと思うのだが、もちろんそのまま放って置けるわけもなく、車を降りて声をかけた。
「大丈夫っスか」
「ああ、大丈夫、大丈夫。心配ないから」
 初老の男性はずいぶん急いでいるらしく、自転車を起こすと挨拶もそこそこに行ってしまった。
 もし警察沙汰にでもなれば、対人事故扱いで面倒くさいことになっていただろう。
 そういった事態にならずにすんでよかったと、何気なく恋人に眼をやって、ぎょっとなった。
 かわいいお尻に、大きな傷跡がついている。
 千秋は思わず放心した。
「………うそだろ」

 □ □ □

 千秋が泣きながら、本当に少しだけ涙をにじませながら帰宅すると、なんとアパートから轟々と火が出ていた。
 大量の煙が立ち込める中、消防団員たちが忙しそうに走り回っている。
 唖然と立ち尽くす千秋の元に、大家の奥さんが駆け寄ってきた。
「よかったあああっ、あなたまだ部屋にいるんじゃないかって心配してたところだったのおおっ」
 半分パニックになって泣きながらしがみついてくる。
 よかった、本当によかったと何度も言うものだから、思わず本音が口をついて出てしまった。
「いや……全然よくないんスけど……」

 □ □ □

 今日は何かある。絶対何かある。
 たぶん厄日というやつだ。
 心優しい我らが大将、仰木高耶大先生が自宅に泊めてもいいというので、キズモノになってしまった恋人で向かうことにした。
 途中、古びた酒屋に停車して、アルコールを調達をする。
 こんな日は酒だ。飲まなきゃやってられない。
 ただ、その酒屋が随分古い店構えだったから、どんな商品が並んでいるのか多少心配しつつも入り口の前に立つ。ところが。
「上!うえっっ!」
 通行人の叫び声が後ろから聞こえて、千秋はハッと頭上を見上げた。
 やけに大きくて古びた看板が、いま、まさに、落ちてこようとしている。
「くぅっっっっ!!」
 とっさに横っ飛びにとんで、間一髪。
   ずしーーん
 ………避けきれなかった。
 頭をかばって倒れこんだ千秋の両足の上に、ひどく重い看板が、大きな音を立てて着地した。
 土ぼこりが静まるのを待って足をひっぱりだそうとしてみたが、両足ともなんだか感覚がない。
 こんなことがあっていいのだろうか。
 何もかもが信じられない状況の中、千秋は天を仰いで呟いた。
「ありえねぇ……」

 □ □ □

 見知らぬ生徒に殴られはしたものの、かわいい女子達が慰めてくれた。
 人身事故を起こした(?)が、大事には至らずにすんだ。
 家が全焼する火事で全財産を失ってしまったが、命だけは助かった。
 ありえないくらい運の悪い事故に遭遇したが、数週間の入院だけですみそうだ。
 松本市内の病院の一室で、千秋はぼーっと外を眺めながら考えている。
 運がいいのか、悪いのか。
 とそこへ、四百年来の同僚がやってきた。
「災難だったな」
 見慣れたダークスーツ姿の直江は、何故かイギリス文学界の巨匠の翻訳本を手渡してきた。
 見舞いの品だという。
「好きだっただろう?」
 こういう本人でも忘れていることを、この男は本当によく覚えている。
「………懐かしいな」
 男の気遣いに内心涙しながら、本のページをパラパラと捲っていると、直江は気の毒そうにギブスを見てきた。
「大丈夫なのか」
「………まあな」
 いつもだったら人の心配をしている場合か、と言ってやるのだが、今回ばかりは返す言葉もない。
「厄年にはまだ早いだろうに」
 直江は腕を組んで偉そうに言った。
「俺にうつすなよ」
────……」
 その一言で、千秋の感傷はどこかに吹っ飛んでしまった。
 自ら災厄に飛び込んでいき、しかも絶対に周囲を引きずり込むことを欠かさない直江に言われてしまうとは。
 千秋はがっくりとうなだれるしかなかった。
「……お前にだけは言われたくなかったよ」



書いてて段々悲しくなってきました……。
次は受難でなく、棚ぼたで書きたいなあ!


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