連載「山眠る」08、09、「白銀の翼」01、
短編「peachy reply」、お題「ひらがな」を更新しました。
連載、早くも終了です!
30巻の「憎んでたんじゃなかったのか」っていう言葉に
繋がるようなものが書いてみたかったのですね。
新しい話は、"関係性は5巻以前だけど季節は11月"という微妙な感じになってます。
ハロウィン記念は、ゴキゲンな高耶さんが書きたくなって。
連載があまりにも暗かったからですかね?
「鏡像〜」で直江が言う「なにを」って台詞が、大好きで、大好きで、大好きで、
とうとう言わせてしまいました。
次回は「鏡像〜」設定の短編を更新予定です。
そして、リクエストを頂いたので、
次回更新時にブログのおまけショートをサイトのほうにまとめるつもりでおります。
とりあえずおまけつきだけカテゴリをわけました。
そしてそして!
□つづき□
□ □ □
登校するまですっかり忘れていたが、今日はバレンタインデーだったのだ。
照弘は、その恵まれたルックスのお陰で結構モテる。
本気も義理も含めて順調に集まったチョコレートは、下校する頃には去年の数を上回っていた。
「ただいまー」
「あら、おかえりなさい。もうすぐお夕飯ですよ」
台所のテーブルで絵本を眺めている義明に、お帰りなさいのキスを要求して嫌がられる。
そのテーブルの上には、チョコレートが数個置かれていた。
父親もそれなりに成果があったらしい。
「義弘、お前いくつだった?」
たまたま飲み物を取りにやってきた義弘に声を掛けると、
「秘密」
と返事が返ってきた。
この次男坊が自分より多く貰ってきたことはない。
よし、この分だと今年も俺が一番だな、とニヤつきながら居間に視線を移して、仰天した。
「な、なんだ、これっ!!」
かなり大きめのちゃぶ台の上には、乗り切らないほどのチョコレートが山積みとなっている。
「皆さんがね、よっくんにって。ホワイトデーのお返し、どうしましょうかねぇ」
おたまを手に首をかしげる母親は、どこか嬉しそうだ。
「よっくん……」
義明は、山盛りのチョコには目もくれずに、真剣に絵本を読み進めている。
照弘は、もうすぐ年少組へとあがる末弟の底知れぬ恐ろしさに、その身を震わせた。
□ □ □
「さて。今日のお洋服、どうしましょうかねぇ」
春枝は洋服ダンスを開けてみせて言った。
「これがいいです」
義明が指差したのは、いつも通りの黒いセーターだ。
「よっくん、いつも黒い服ばかりだから、たまにはこういうのもどうかしら?」
春江は英字のプリントの入ったブルーのトレーナーを手に取る。
「でもこれがいいんです」
負けじと義明は黒いセーターを手に取った。
誰に似たのか、義明はとても頑固なところがある。
「そうね、じゃあこれにしましょう」
春江がそう言うと、嬉しそうににっこりと微笑んだ。
□ □ □
照弘が、休校だからと家でごろごろしていたら、義明の幼稚園バスのお迎えに
行かされるハメになった。
集まっていたお母様方にお世辞などを言いつつ和やかに過ごしていると、
やがて幼稚園バスが到着し、その場は一気に修羅場と化した。
「やだやだ、かえりたくない〜〜〜〜ッ!!」
「まだよっくんとあそぶの〜〜〜〜ッ!!」
バスを降りた女子園児達が力いっぱいに泣き叫ぶ。
お母様方の対応を見ていると、どうやら毎日のことのようで随分手慣れていた。
「またあした、あそぼうね」
弟がさわやかな笑顔で手を振る。
なんとか娘達をなだめながら連れ帰るお母さん達を見送りながら、
「よっくん、モテモテだなあ」
と、からかい半分で言ってみた。
すると。
「どうせおとなになったら、ぼくのことなんてわすれてしまいますから」
「……………」
あくまでも冷静な弟は、にこやかな笑みでそう言った。
□ □ □
女の子は結構自分で服を選びたがると思うけど、男の子ってどうなんですかね?
よっくんは自分で選びそうですよね。
直江としての記憶なんかは、六歳までは封じてるんですよね……?多分。
でもそしたらどうやって色部さんからの思念派に応えるんだろう?
……どっちにしても、直江は直江、ということで!
以下はもうちょっと大きくなってからのお話です。
□ □ □
やっと手に入れた自分の車。初めてのドライブ相手に、照弘は義明を選んだ。
いつ自殺衝動がおこるかわからないのに、外へ連れ出すなんて絶対に駄目だという
母親の反対を押し切って、海へとやってきたのだ。
「海なんて、久し振りだろ」
防波堤にふたりして腰掛けて、照弘は言った。
「昔、皆で来た時のこと、覚えてるか?」
体育座りで海を見つめる、義明からは返事がない。
けれど、その瞳の色がいつもと違うことがわかったから、来てよかったな、と思った。
湿った風に吹かれてぼーっとしていると、時間が経つのを忘れてしまう。
気がつくと、義明は抱いた自分の膝に顔を埋めていた。
多分、泣いているのだ。
肩が小刻みに震えている。
照弘はその小さな肩に手を回し、引き寄せた。
□ □ □
照弘が帰宅すると、母親が物干し竿の元でうずくまっていた。
どうやら洗濯物を取り入れている最中のようで、具合でも悪くなったかと慌てて傍へ
寄ってみて、泣いているのだとわかった。
だから、何も言わずにその場を去った。
ここ数年、弟のことで泣く母を何度見たことだろう。
それでも弟を責める気になれないのは、誰よりも弟自身が苦しんでいるとわかるからだ。
照弘は、弟の部屋の前までやってきて立ち止まる。
自分だってこうして襖に手を掛けて、自分に出来ることなど何もないのではないかと自問自答したことは、一度や二度ではない。
それでも何かをせずにいられないのは、やはり自分が弟を愛しているからだ。
例え否定されようと罵られようと(弟はそんなことは絶対にしないが)どうせ自分は弟を憎むことなど出来ない。
「義明、入るぞ」
照弘は心に気合をいれて、襖を滑らせた。
□ □ □
「義明、義明」
玄関のチャイムが鳴り、応対に出た母親がばたばたと戻ってきた。
「あなた宛てですよ、受け取っていらっしゃい」
「?わかりました」
玄関へと向かった義明は、華やかなラッピングのされた大小さまざまな箱を
両手いっぱいに持って戻ってきた。
そういえば明日はバレンタインデーだ。
「チョコレートか?」
去年、高校にあがって初めてのバレンタインで、義明は自分が同じ年の頃の量を
軽く超えるプレゼントを持ち帰った。
「誰からだ」
「………知らない方ばかりですね」
照弘も一緒になって差出人をチェックする。
「学校の子か?ならなんで学校で渡さないんだ」
義明が首をかしげながら言う。
「去年、義理以外のものは全てお断りしたせいでしょうか」
それで、今年は突っ返されないために、家に送りつけてきたという訳か。
「………お前、あの量でもまだ断った分があったのか」
まあ、俺らの頃より景気がいいから、バレンタインも盛大なんだろう、
と自分を納得させて、某有名メーカーのチョコレートを手に取る。
「お、これうまそうだな」
「駄目ですよ。今年は義理でも受け取らないことにします」
返せるものは返します、と義明は照弘の手からチョコレートを取り上げる。
「いいじゃないか、貰っておけば」
「変に期待させる訳にもいかないでしょう」
「………お前は」
もう17にもなるのに、義明にはまだ特定の人がいないようだ。
これだけヨリドリミドリの中で、いったい何を考えてるんだか。
「いいんだぞ、別に。女の子のひとりやふたりと付き合ったって」
「"ふたり"はまずいでしょう。兄さんじゃないんですから」
義明が笑うから、脇腹に軽くパンチを入れる。
しばらくそこで、くすぐったりしてじゃれ合っていたが、ふと義明は真顔になった。
「お付き合いなんてしても、きっと苦労させるだけですから」
「………そりゃあ、そうかもしれないけどな」
義明の心の内を理解してやれる子は、確かに同年代にはいないだろう。
けれど、義明が思春期の男の子であることには変わりはないのだ。
精神的なこと以上に、肉体的なこともあるはずだ。
「その………女の子に興味がない訳じゃないんだろう?だったら我慢しないほうがいい」
それを聞いて弟は、ああ、と当たり前のような顔で言った。
「そういうことは、別にお付き合いをしていなくたって、出来るでしょう?」
「……………よしあき?」
照弘が、もしかしたら教育の仕方を間違ったかもしれない、と思った瞬間だった。
□ □ □
街中で、急に駆け出した義明は、少し前を歩いていた男の腕を強引に掴んで振り返らせた。
「なんだよ」
振り返ったその男が、怪訝な顔で義明をみる。
「………すみません。人違いでした」
義明が小さく謝ると、その男はさっさと歩いて行ってしまう。
取り残された義明は、そのままその場で立ち尽くした。
「どうした」
「いえ」
照弘が声をかければ一応微笑んでは見せるものの、とても笑顔と呼べる顔ではない。
「行きましょう」
そういって歩き出した弟の背中からは、絶望にも似た悲しみが滲み出ている。
弟の"病"はまだ癒えていないのだな、と照弘は再認識せずにはいられなかった。
□ □ □
怒涛のよっくんラッシュ。
バレンタインネタが好きみたい……。
高校生くらいのよっくんって一人称は僕ですかね?私ですかね?
悩むなあ〜♪
本当は、チョコ返すなんて律儀なことはしないんだろうな。
返すにしても自分じゃやらなそうです。
奥村さんとかをいいように使いそうです。