お題「反逆者」と、web拍手お礼テキスト、おまけ12編を更新しました。
今月のweb拍手のお礼テキストはテーマ「11歳」で!
ああ、もう7月ですねえ……(遠い目)。
それから、いつも拍手をありがとうございます!
嬉しいお言葉も、本当に本当にありがとうございます!!
ちゃんとお返事できてなくて、すみません。。。
でもでも、本当に嬉しくていつも涙が出そうになります。
お礼は小説で!と気合を込めて、これからも精進して参りますのでっ!
ではでは、今回のおまけはweb拍手テキスト落選組です!
□つづき□
□ □ 2歳 □ □
「あちゅいでしゅね……」
「そうねえ、もう夏ですものねえ」
外から聞こえてくる蝉の鳴き声が更に暑さを掻き立てる。
「お夕飯は何にしましょうかねえ」
「"なしゅのおひたし"がいいでしゅ」
「………ハンバーグとかオムライスでもいいのよ?」
「なしゅにはからだをひやしゅこうかがありゅんでしゅ」
「……………」
(いったいどこでそんな事を覚えてくるのかしら)
そういえばこの間テレビでそんなことをやっていた気もするけれど。
我が子の行く末をほんのり気に病みつつ、頭の中の買い物リストに"茄子"の文字を入れた。
□ □ 7歳 □ □
試験さえ終わってくれれば、照弘も夏休みに入る。
スケジュール帳を山登りやら海水浴やら埋め尽くして、夏を満喫するつもりマンマンの照弘だったが、その前にひとつ、行かねばならないところがあった。
知り合いの寺に預けられている、義明のところだ。
訪ねるのは、初めてだった。
いかつい顔をした住職が、仏頂面で迎えてくれた。
「大人でも音をあげるというのによくやっているよ」
照弘たちの父親とは十年来の仲であるその人は、しみじみそう言った。
めったに人を好く言う人ではないから、余程感心しているのだろう。
「ちょうどいい。これを持っていってやってくれ」
手渡されたのは、今朝方に母が持ってきたという弁当だった。
毎日朝晩、欠かさず差し入れに来ているらしい。
本堂にいると言われて行ってみると、経でもあげているかと思ったのに何と雑巾がけをしていた。
「義明」
「……にいさん」
「どうだ、元気にしてるか」
声をかけると、弟は手を休めて正座で向き直ってくれた。
「辛くないか」
「……………」
問いかけても返事が返ってこないから、
「愚問だな」
仕方なく自分で答える。
話題を探して
「それも修行の一環か?」
雑巾がけのバケツを指し示すと、
「からだをうごかしていたほうが、らくなんです」
幼い声で敬語を紡ぐ。
「だからよるは」
無表情なのは、感情を表に出さないようにしているからだ。
「あたまがはれつしそうになります」
あまりの痛々しさに、照弘の心まで破裂しそうになった。
□ □ 12歳 □ □
「義明、ちょっとここに立ってみなさい」
鏡の前に息子を立たせてその横に自分も並んでみると、
「やっぱり」
息子のほうがわずかに背が高いのがわかる。
橘家の子供たちは皆平均よりは背が高いけれど、小学生のうちから自分の背を越した子はいなかった。
「ウチで一番大きくなるかもしれませんねえ」
週末、大きめの服でも買いにいこうかしらと考えていると、
「お母さん」
「なんです」
声を掛けてきた息子は長い間躊躇った後で、
「ありがとうございます」
そう言った。
「……義明」
何に対してとは言わなかったけれど、言いたいことが伝わってきて、胸に熱いものが込み上げてきた。
「そういうことは、いつかお嫁さんを貰って、この家を出て行くときに言いなさい」
思わずにじみかけた涙を拭きながら、そう言った。
□ □ 17歳 □ □
毎日、真夏日が続いている。
久しぶりに実家へ戻ってきた義弘が週末、家でくつろいでいると、都内でOLをしている姉まで帰ってきた。
「どうなの、大学は」
「順調ですよ」
「ねえ、お母さんに聞いたんだけど、せっかくあんたが家を継ぐっていうのに、義明もそっち系の大学に行くって本当?」
「兄さんだって、資格だけは取ったでしょう」
「そうだけど……」
ちょうどそこへ、義明が学校から帰ってきた。
「兄さん。姉さんまで」
珍しい顔触れに目を丸くしている。
「全員揃っての夕食なんて、どれくらいぶりですかね」
学生鞄の中から空の弁当箱を出して台所の流しに置く弟に、姉が話しかける。
「また変わったこと始めたんだって?」
「変わったこと……」
「ほら、陸上?」
「ああ」
思い当たった弟は、笑みを浮かべた。
「そうなんです。助っ人要員で」
「……本当にやりたいことがあるんなら、お寺のことなんて考えなくていいんだからね」
「───姉さん!」
義弘が思わずあきれた声を出すと、
「お母さんだってそう言うわよ!……たぶん」
冴子は自信無さげに反論をした。
が、しかし、義弘も冴子も、たぶん困ったように笑っている当の義明でさえこの時点ではわかっていなかった。
将来この義明が、放蕩息子などと呼ばれるようになるなんて。
「義明はそんな無責任な人間じゃありませんよ」
今となっては嫌味にしか聞こえないであろうセリフを、この時の義弘はかなり真剣に言ってのけた。