連載「seven wonder!」を更新しました。
怪談話をするには、ちょっと涼しくなりすぎちゃいましたかね~^^;
ではではおまけは、パラレルEN設定です!
□つづき□
眼を覚ました直江は、もうすぐ鳴り始めるであろう目覚まし時計のスイッチをばしっと切った。
おもむろに起き上がると、そのまま浴室へと直行する。
服を脱ぎ、熱いシャワーを頭から浴びれば、寝起きの頭も少しずつクリアになっていく。
今日一日の予定を、頭の中で組み立て始めた。
シャワーを浴び終えたら服を着、コーヒーを入れ、朝刊に眼を通し、家を出て車へと乗り込む。
向かう先は、朝一でアポを取ってある顧客の所。そこでの打ち合わせが終わったら、事務所へと出勤する。
そういえば今日は、兄が東京へとやってくるのだった。
と言うことは、いつもの流れで夕飯に付き合わされてしまうかもしれない。
(………それは困る)
そうだ。これから打ち合わせをするPD社の社長と兄は古くからの友人だから、朝の内に社長へ兄が東京へやってくることを伝えてしまえば、きっと兄を夕飯に誘ってくれるだろう。
じゃあ自分は、出勤してすぐに今日は用があるからと定時で上がる旨を兄に伝えてしまおう。
その時は駄目だと言うかもしれないが、社長からの誘いがあれば「今日は許してやる」とか言い出すに違いない。
何せ今日は、金曜日。
高耶が東京へとやってくる日だ。
日曜の夕方まで、たった二日弱しか一緒にいられない。
貴重なその時間を、兄とはいえ邪魔して欲しくはないのだ。
完璧な計画にほくそ笑むと、直江はシャワーの湯を止めた。
□ □ □
「えっ!私もですか」
打ち合わせを終えて事務所へ出勤すると、すでに出勤していた兄に、PD社の社長との会食があるから今夜は空けておけと言われてしまった。
予定があるから残業は出来ませんよ、と言う暇さえなかった。
「私が同席する必要がありますか」
「今回の案件はお前が全て取り仕切っているんだろう?だったら、必要もへったくれもない」
「しかし───」
「新たに三店舗だって?あいつも手広くやるなあ」
兄は大学の後輩の有能さに、感心した声を出した。
が、直江の方はそれどころではない。
社長とは19時に待ち合わせだそうだから、どんなに早くとも店を出るのは22時頃。家に着くのは23時。
高耶はきっと、20時にはマンションに到着するだろう。
………けれど、先方に直江が行くと伝わってしまっている以上、行かない訳にもいかない。
橘不動産東京事務所にとって、PD社はそれほど重要な顧客だった。
(藪蛇だったか……)
心の内で自分を責めてみても、もう、後の祭りだ。
□ □ □
高耶には電話で、日付が変わる前には帰る宣言をしてしまったというのに、もう25時を回っている。
(酒臭いだろうな……)
直江は自宅の扉の前に立って、入るのを躊躇していた。
ただでさえ、高耶はアルコールの匂いに敏感なのに。
(気分を逆撫でするだろうな)
時間が遅いからチャイムは鳴らさずに、覚悟を決めて部屋へと入った。
いっそのこと眠っていてくれれば、と思ったのだが、
「……ただいま戻りました」
「おかえり」
高耶は、キッチンのテーブルに頬杖をついて座っていた。
「すみません、遅くなってしまって」
「いいよ、別に」
表情には、別段変わった様子は見受けられない。そのことが逆に、直江の不安感を煽った。
「疲れてんだろ。座ったら」
ええ、と応えながら、直江は上着を脱ぐ。
「夕飯、何食べたんですか?」
「カップラーメン」
直江はう、となった。
自分は、兄の奢りで豪華ふぐ三昧だったのに………。
「い、今は何をしてたんです?」
見まわしてみれば、テレビもついていないし周囲に読みかけの漫画も無い。
「ぼーっとしてた」
高耶は本当にぼーっとした表情で立ち上がると、冷蔵庫を開けて飲み物を取り出す。
「昔よく、親父が酔っ払って帰ってくるのを台所でお袋が待っててさ。その後ろ姿見ながら、今日は親父の機嫌が良いといいなとか、考えてたなーって」
高耶はふう、とため息をつくと、オレンジジュースをごくごくと飲んだ。
(………これは、かなりまずい)
高耶は、怒りを通り越して、気が滅入り始めているようだ。
「高耶さん……」
とりあえずはお詫びの意味を込めて、その消沈した身体を腕の中に収めたいと近づいた直江を、高耶はそっと押しのけた。
「風呂が先。知らねー香水の匂いなんて、嗅ぎたくないからな」
咄嗟に、言葉が出なかった。
(ああ、あらぬことまで疑われている……)
□ □ □
仕方なく、言いつけ通りに浴室へと入ってシャワーの蛇口を捻ると、高耶好みの少しぬるめのお湯が出てきた。
(しくじったな………)
温度設定を少し高めに変えながら、直江は今朝ここで立てた計画を心の底から悔やんでいた。
PD社の社長を巻き込むことなくただ兄と食事に行っただけなら、きっともっと早くに帰ってこられただろうに。
浅はかな自分を呪わしく思いながら浴室を出ると、キッチンから高耶の姿が消えていた。
寝室を覗いてみると、高耶はベッドの端っこの方で丸くなっている。
「隣、いいですか」
「………いいよ」
布団に入って、後ろから肩に触れても怒られなかったから、背後からそのまま抱きしめた。
「───オレさ」
「はい?」
「卒業したら、東京に来ようかと思う」
「えっ」
驚きのあまり、直江は二の句が告げられなかった。
あれだけ松本を離れることは出来ないと言っていたくせに………。いったいどうしたというのだろう。
「そうなったら、ここに住もうと思うんだけど」
「ぜ、ぜひそうしてください」
「けど、おまえにしてみたら面倒なことなんじゃないか?帰り遅くなる度に、オレのこと気にしなきゃなんないし」
「面倒な訳ないでしょう!」
思わず声が大きくなっていた。
「……そっか」
つぶやく高耶を抱く腕に、ぎゅっと力を込める。
「出来るものなら、うちの事務所に就職してもらって、朝昼晩、ずっと一緒に………」
直江は本心からそう思うのに、何故かおかしそうに笑った高耶は、その身体を小さく揺らした。
「ベッドはもうひとつ買うからな」
「ええ!何故です!一緒に寝るのが嫌なんですか!」
「………いや、対外的なもんがあるだろ。ふたりで住んでて、ベッドひとつじゃおかしすぎる」
高耶は呆れた声を出しながら、
「それにほら」
直江の手を掴んだ。
導かれるまま辿り着いた先には、しっかりと反応した高耶の性器。
「毎晩こんなことになってたら、オレ、身体が持たない」
……自分としては、大歓迎だと思いつつ、
「じゃあ、今夜は身体への負担をかけずに満足出来る方法を模索してみましょう」
「…………淡白なのは、やだぜ?」
大丈夫と直江は頷いた。
「ちゃんと濃厚で、ハイクオリティな、スペシャルコースですよ」
耳元で、そう囁くと、腕の中の高耶の身体が、ぶるりと震えた。
淡白な直江なんてw
相当具合が悪いとしか思えない^^