連載「undiscovered exploit」05〜07、
お題「カタカナ」を更新しました。
お題のほう、ディベートどころか口げんかにもなりませんでした……。
ふたりが言い争うと、真面目な話題になっちゃうから……。
そして……
□つづき□
何をやってもうまくいかないこともある。
戦闘中、高耶の出した指示がことごとく裏目に出、
結果、目的だった霊波塔の奪還は阻止されてしまった。
砦へと戻っても、飛び込んでくる他所の戦況は悪いものばかり。
挙句の果てには、物資の運搬や通信機器の故障など、
雑務のほうでもトラブルが続出した。
「くそ……っ」
山積みとなっているはずの書類を目にしたくなくて、
高耶は部屋には戻らずに、裏の林へと逃げ込んだ。
仰向けに寝転んで、挫けかかった心で空を見上げる。
たぶんこのやり方では駄目なのだ。上手くまわすことが出来ていない。
赤鯨衆は今、急激に変化している。根本的な建て直しが必要だ。
(…………)
いつもだったらこんなことで落ち込んだりはしないのに、何だか今日は変だ。
自分の弱さに腹が立つ。こんなことでは皆に笑われてしまう。
(こんな時はどうしてた?)
四百年も生きてきたのだ。同じような事が前もにあったはずだ。
「……教えてくれ」
高耶は小さく呟いて、瞳を閉じた。
何でもいいんですよねー。
まずは食事にしましょう、とかって食堂に連れて行くとか、
これ飲んで落ち着きましょう、とかってコーヒー渡すとか、
大丈夫ですか、って声かけてもらうだけでも全然違うんですよねー。
戻ってきたホテルの部屋で、直江が何やら机に向かっている。
「手紙?」
いつの間に買ったのか、観光地によくあるような、
お土産用の絵ハガキがその手にあった。
「家族ぐるみでお世話になってる方なんです。
旅先からの手紙をすごく喜んでくれる方で」
「へえ」
直江は内ポケットから万年筆を取り出して、
スラスラと文面を綴り始めた。
文面を見るのはどうかと思ったのだが、
直江の書く字があまりにも整っていたので、見入ってしまう。
「?」
───だと思いました。大切な人と旅をするのは、ほんとうにいいものですね。そういえば───
「なあ」
「はい?」
「大切な人って何だよ」
「気に入りませんか?」
「いや、そーじゃなくてだな」
「主人と書くわけにもいきませんしね」
「まあ、そーだな……」
微妙な違和感を感じつつも、納得してしまう高耶だった。
□ □ □
文字は人をあらわす。
高耶の字は、大雑把なように見えて意外と繊細だ。
書く人間と同じ、素直じゃない字なのだ。
「見おわったら返せよ」
直江の手には、千秋からの急な電話に高耶が慌てて書いたメモがある。
これから行く先の住所が書かれている。
「何、笑ってんだよ」
「いえ。あなたらしい字だと思って」
「どーせ歪んでるとかって言いたいんだろ」
そう言いながら、メモを取り返そうとボクサーのように手を繰り出す。
「そんなこと思ってませんよ」
直江は取り返されぬよう、高耶の手が届かない高さまで手をあげた。
「私は、好きですよ」
高耶の顔を見つめながら言ったものだから、
思いのほか感情がこもってしまったようだ。
「……お前に好かれても何の徳にもなんねーよ」
そう言いつつも、まんざらでもない顔だ。メモを取り返すのは止めたらしい。
本当に素直ではない。
「そこが、いいんですけどね」
呟くように言うと、なに?と聞き返された。
「いいえ。筆跡心理学って知ってますか」
「きいたこともねーな」
「筆跡から書いた人物の心理を分析するんです。やってみせましょうか」
「いーって」
「そうですねぇ、この文字を書いた人物が何を考えていたかというと………」
胡散臭そうな顔している高耶の横で、
直江は軽く唸ってみせてから、もっともらしく言った。
「"お好み焼きが食べたい"」
高耶は目をぱちくりさせた。
実はホテルに戻ってきた際、向かいのお好み焼き屋から漂う匂いに
高耶が鼻をヒクつかせていたのを、ばっちり目撃していたのだ。
「当たってんじゃん」
「でしょう?」
声をあげて笑う高耶に、直江も満足気に微笑み返した。
な、ながい……。
しかも結局、オチはいつもの餌付け……。
直江の内ポケが四次元ポケットになっていたら楽しいな♪