忍者ブログ 不立悶字(ふりゅうもんじ)

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短編を更新
短編「溺心」を更新しました。

まずはお詫びを!
一日一話、昨日分はタイトルがおかしかったし、
本日分は設定を間違えていて、いつもの時間に更新できていませんでした;;
すみませんっ!
ぼーっとしながら更新作業をしては、いけませんね。。。

それから最近、月曜更新に甘え気味ですみません!
金曜に戻すチャンスを伺い中。
そういえば、3月分のおまけも整理していないですねえ。

ではでは、今日のおまけはひとつだけ。
いつもの、いい加減な江戸設定です^^;
つづき
 宿へと戻った景虎は、窓際で徳利を傾けながら、大きくため息をついている。
 直江はそれを、足を崩すことなく見つめていた。
 長秀と晴家は、今頃どこぞのお座敷で宴会中だろう。
 勝長はふらりと出て行ったまま、戻ってきていない。
 今宵は、久しぶりの大捕物だった。
 夜叉衆全員揃い踏みで、大量の怨霊群を《調伏》しまくった。
 先程からずっと黙ったままの景虎は、今日は誰よりもよく駆け回っていた。
 だからそのせいで、疲労のため息を漏らしているのかと思っていたが、実はそうではなかったようだ。
「蝿を叩き潰すのに似ている」
 ぽつりと、そう呟いた。
「そうは思わないか」
 どうやらあまりにも多くを《調伏》した為に、罪悪感に苛まれているらしい。
 こんなときの直江の言葉は、いつだって決まっていた。
「だとしても、誰かがやらねばなりませぬ」
 模範的な解答に、景虎は面白くなさそうな顔になる。
「つめたい男だ」
「それが、使命ならば」
 そう言ったら、フンと鼻を鳴らされた。
「おまえはいつも、そればかりなのだな」
 今の言葉は、自分を馬鹿にしたものなのだろうか。
 けれどその言葉に間違いはないと、直江は思った。
 "それ"以外にいったい何があるというのだろうか。
 自分と、景虎を繋ぐものは。
 ふたりの絆がそれしかない以上、"それ"ばかりでいることしか、直江には出来ないではないか。
 月に照らされた、まるで美人画の様な横顔を見つめながら、
「私には、それしか無いのです」
 素直にそう伝えた。
「そんな訳はないだろう」
「いいえ」
 首を横に振ると、
(私には、あなたしかしない)
 心の内で強くそう思った。
 するとそれが通じたかのように、景虎はちらりとこちらを見て、またすぐに視線を戻す。
 そしてまた、そのまま黙ってしまった。
 直江は何とか口を開かせようと、
「あなたには、それ以外のものがあると?」
 そう問うてみた。
「……………」
 景虎は答えを返さない。
 怒らせてしまったのだろうか。
 ところがしばらくして、
「なくなった」
 徳利が空であることに気付いた景虎は、それを直江に振って見せた。
「………ただいま」
 立ち上がった直江が新しい酒を貰いに行こうとすると、
「猪口をもうひとつ」
 背後から声が掛かった。
 おまえも呑めということらしい。
 直江は軽く驚いて、思わず振り返る。
 景虎が自分に酒を飲ませたがるなど、余程機嫌がいいときでしか有り得ない。
 落ち込んでいるのか、機嫌がよいのか、一体どちらなのだろう。
 疑問に思ってよくよく見てみると、白い横顔の口端には、何故か笑みが浮かんでいた。
 その笑みが直江の心の内に、すっと入り込んでくる。
「………御意」
 そう答えた直江も、気付かぬうちに微笑っていた。
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