忍者ブログ 不立悶字(ふりゅうもんじ)

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短編を更新
ということで、二日遅れですが、
高耶さん誕生日記念短編「bitter gift」を更新しました!
何故か高耶さんが主役じゃなくなっちゃいましたが……。
川中島のこともあまりよく知らないままに書いてしまいましたが、
勉強せねばいかんですね!
それから、webオンリーに無事仲間入りさせてもらったので、
イラストのリンクは直じゃなくしました。

さてさて、猫が床に落ちてる季節になりました!
今日も暑かったですねえ。。。
最近テレビ見てないのでわからないのですが、全国的に暑いんですか^^;?
おかげで我が家の松葉ボタンは元気いっぱいですが!

では、今日のおまけは誕生日全然関係なしです^^;
つづき
 高耶が泣いている。
 まだとても小さくて、たぶん4つか5つくらいの高耶が泣いている。
 大声で喚きながらではなく、しくしくと悲しみに耐えながら泣いている。
 その様子があまりにもいじらしくて、直江は高耶を抱き上げた。
───どうしたの?
 そう、尋ねると、
───どうもしない
 小さかったはずの高耶は、いつのまにか今の高校生の高耶になっていた。
 挑戦的な目付きで直江の首に腕を巻きつけてくる。
 しかも、何故か全裸だ。
「た……っ、たかやさんっ!」
 直江が慌てて引き剥がそうとしても、手足が絡みついてきて引き剥がせない。
───直江
───離れてくださ……っ!
───なおえ
───高耶……さん……

「なーおーえ」
「!」
 そこで、はっと目が覚めた。
 直江のベッドの傍らにには、不思議そうな顔をした高耶が立っている。
「大丈夫かよ」
 カーテンの隙間から、朝の光が漏れていた。
「めずらしいな、オレのほうが先に起きるなんて」
 そういいながら高耶は、寝巻きを脱ぎだしている。
「今日はどこ行くんだっけ?」
───……」
 直江は、問いかけてくる高耶をぼーっと眺めてしまった。
 なんであんな夢を見たのだろうか。
 昨日の夕食の時、高耶の小さい頃の話なんて聞いてしまったからだろうか。
「直江?」
 着替えを終えた高耶が顔を覗き込んできた。
「まだねぼけてんのかよ。オレ、腹減ってんだけど」
 その一言で、直江の頭は急速に現実へと戻っていく。
 笑顔を浮かべると、
「じゃあ、朝食にしましょう」
 そう言って、立ち上がった。


  □ □ □


 ふたりは今、横浜市内のシティホテルに泊まり込みで事件の調査にやって来ていた。
 横浜といえば綾子のお膝元である訳だが、現在彼女は関西の方で調伏活動中だ。
 それなのに調査に急を要する事件が横浜で起きてしまい、直江は仕方なくブーブーと文句を垂れる高耶を連れて、一昨日から泊まり込みでやってきていたのだった。
 幸い、事件は昨日無事に解決した。
 だから今日は、いつもとは違って朝食にたっぷりと時間をかける余裕がある。
 ふたりがホテル内にあるレストランにやってくると、朝食はバイキング形式のようだった。
 宿泊料金は朝食込みでもかなり安いものだったけれど、その割には結構いいメニューが並んでいる。
 育ち盛りの高耶は嬉々として取り皿を山盛りにすると、席に着くなり口の中にかき込み始めた。
 そして、目の前でコーヒーをすする直江に問いかけてくる。
「で、どうすんだよ、今日は」
「そうですねえ」
 重ねて言うが、昨日で事件は解決してしまったのだ。
 高耶は今日の夕方に新宿を出るあずさで帰る予定だったから、それまで時間が空いてしまう。
「早めの便に変えて帰ります?」
「夏休みだろ。自由席で座れなくて立って帰るなんてやだぜ」
「じゃあ、車で送りましょうか」
「渋滞、してんだろ」
 直江の案をことごとく否定した高耶は、
「他になんかねえの?事件」
 料理を口に詰め込む手は止めずに言った。
「……………」
 高耶から事件のことを言い出すなんて、めずらしかった。
 何か家に帰りたくない理由でもあるのだろうか。
「大体、横浜っつったら観光地だろ。どっか寄っていこうぜ」
「まあ、たまにはそれもいいですが……」
 直江が横浜といって思いつくのは、デートスポットばかりなのだ。
「観覧車、乗ります?男二人で」
「じょーだん」
「美術館なんかもありますが」
「…………」
「なら、中華街まで出て美弥さんのおみやげでも買いますか」
「おお!いいじゃん!」
 ということで、本日の予定が決定した。


  □ □ □


 高耶が車でなく電車がいいというので、ホテル近くの駅に車を停めて電車で行くことにした。
 確かに車内は空いていてくつろぎながら移動ができたから、車で行くことを選ばずに正解だったかもしれない。
 ところが、電車移動を言い出した張本人が吊革に掴まりながら、何故か居心地悪そうにしている。
 どうかしたのかを尋ねると、小声で、
「おまえ、目立ちすぎ」
と言われた。
「……………」
 そんなつもりのなかった直江は、自らの格好を見返してみた。
 黒服サングラスならともかく、今日は白シャツにノーネクタイで下だってありふれた濃茶のストライプだ。どうやら、服うんぬんの問題ではないらしい。
(やっぱり、背か)
 昔ほどではなくなったのだが、やっぱり185センチ以上あるとどうしても人目を引く。
 高耶にそう言ったら、
「自覚、ないのな」
と、あきれられた。
「顔が目立つんだよ、おまえは」
 さすがに思いつかなかった理由を言われて、直江は笑うしかなかった。
「こればっかりは生まれつきなのでどうしようもありません」
「わかってるけど」
 そう言って、直江の顔をじっとみた高耶は、
「なあ」
「はい」
「本物の仰木高耶がいたみたいに、ホントの橘義明もいたんだろ」
 思わぬ話題をふってきた。
 電車でする話じゃないな、と思いながら静かに頷く。
「家のひととか、きっと中身がおまえでよかった」
「………どうしてです?」
「きっとそんな見た目じゃ、遊びまくって女泣かせてさ、ロクな人間になんなかっただろ」
と断定的に言ったあとで、高耶はわかんねーけどさと言葉を和らげる。
───……」
 突っ込みどころは満載だけど、とりあえず直江は胸を撫で下ろした。
 既に自分はロクな人間ではないけれど、高耶の目にはまだまともな人間に見えているようだ。
「褒め言葉ですか?」
 茶化すように言ってみたら、
「別に。本当にそう思っただけだ」
 高耶はそっぽを向いてしまった。


  □ □ □


 高耶たちを乗せた車両が、目的の駅の構内へゆっくりと滑り込んでいく。
 と、まだ全ての車両がホームへ収まりきらないうちに、電車は不自然に停車した。
「?」
 思わずふたりは顔を見合わせる。
 しばらくそのままドアは開かず、ホーム上を慌てふためいた駅員達が行き来するのが見えた。
 しばらくすると、車内アナウンスが人身事故の発生を告げる。
 乗客はホームにつけることのできた前の方の車両から、順番に降りることになった。
「……飛び込み、だよな」
「でしょうね」
 ふたりが車両から出てホームに降り立つと、先頭車両の周辺に人だかりが出来ていた。
 遠くから、救急車のサイレンが聞こえてくる。
 野次馬の輪から這い出てきた高耶と同じ年の頃の男の子が、待っていた友人に話す声が聞こえた。
「まだ生きてるみたいだぜ」
「げえ、それも悲惨だな」
 スピードが落ちたところだったせいか、うまく下敷きにならずにまだ息があるらしい。
 ───しかし。
「おい……」
 高耶にも、見えてえてしまったようだ。
 ホームの人だかりを少し離れた場所から呆然と眺めているひとつの霊体。
 まだ、若い。大学生くらいだろうか。
「直江」
「ええ」
 もちろん、直江にも見えている。
「馬鹿なことしやがって」
 そう言うと、高耶はその男の元へと歩き出した。
「高耶さん」
 呼びとめる直江の声など、全く耳に入っていないようだ。


  □ □ □


 男に対して高耶が何かを言った。
 しかし男は首を横に振り返すのみだ。
 高耶はあきらめずに何度か話しかけるのだが、男は頑なな様子だ。
 じきに、高耶は少し離れた場所で見守っていた直江のところへと戻ってきた。
「あいつを身体に戻してやる方法はないのか」
「無くはなくはないですが……戻ったとしても、いずれまた自殺するかもしれませんよ」
 直江がそう言うと、
「あいつもそう言ってる。でも、放っておくわけにはいかないだろう」
「……………」
「おまえは、放っておいたほうがいいって思ってるのか」
 高耶が、睨み付ける様にして直江を見てきた。
 その力強い視線を、直江はじっと受け止めた。
「どうするかを決めるのは私じゃありません。あなたですよ、景虎様」
「…………」
 しばらく直江を睨んでいた高耶だったが、不意に踵を返すともう一度男のところへと歩いて行って、何かを一言話しかけた。すると先ほどとは違い、男の方が何かを高耶へ語りだした。高耶は相槌を打ちながら話を聞いてやっている。
 周りの人間には男の霊体が見えないから、宙に向かって頷いている高耶に気付いた何人かの人々が、奇異の眼で通り過ぎて行った。
 そんなことは気付きもしない高耶は、しばらくして厳しい表情を崩さぬまま戻ってきた。
「やっぱり、あいつはまだ死ぬべきじゃない」
「いいんですか」
「直江、これは命令だ」
 眼に、虎の力を宿して高耶は言う。
「あいつを身体に戻してやって欲しい」
 そこまで言われて、直江の中に逆らう理由はなかった。
「御意」
 頷いた後、口の中で短い真言を唱え、素早く印を結ぶ。
 すると。
「!」
 男の霊体から水蒸気のようなものが立ち上がり、一瞬パッと光った後でかき消えた。
「これで身体に戻ったはずです」
 さっきまで霊が立っていた場所を見つめている高耶に直江が言うと、
「………さんきゅ」
 半信半疑の声で、応えが返ってくる。
 すると、
「おーい!意識が戻ったらしいぞ!!」
 二人の背後から、そんな野次馬の声が聞こえてきた。


  □ □ □


 観光客でにぎわう雑貨屋で美弥に小さな小物入れを買った後、食料品店でしきりに気にしていた少々値段の貼るごま油を直江に買って貰って、高耶は満足したようだ。
「さすがに昼食にはまだ早いですねえ」
 直江が腕時計を見ながら言うと、
「え、オレはいつでもオッケーだけど」
と、高耶がお腹をさするから、直江は思わず吹き出した。
 結局もうちょっと陽が高くなってから、ということになり、ふたりは目的もなくブラブラと歩き出す。
「死人の面倒見る前に、もっとすることあるよなあ」
 ぽつりと高耶が呟いた。
「例えば?」
「友達の悩みをきいてやるとか」
「え?」
 高耶のキャラにない発言に、思わず直江は耳を疑った。
「オレのまわりにだって、あいつみたいに早まって馬鹿な真似するやつがいないとも限らないだろ」
 高耶は真面目な顔で話している。
「だからってあなたに相談ごとですか」
 直江が茶化すと、
「うるせーなー」
 高耶は自分でも解っていたらしく、
「ま、譲みたいのがいなくなったら、世の中終わりだな、きっと」
 と腕組みで頷いている。友人たちの相談役は、成田譲に託す気になったようだ。
「そうですね」
 確かにあの譲なら、親身になって話を聞いてくれそうだ。
「オレとかおまえみたいのばっかになったら、自殺者で電車止まりまくりだな」
「………一緒にしないでください」
 電車の中では褒めてくれたはずなのに、今度は何故かヤンキー高校生と一緒にされてしまった。
 直江は眉を上げながら、そのことに対して抗議をする。高耶は笑ってそれを受け止めた。
 異国情緒溢れる町中を、ふたりはしばらくの間、ゆっくりと歩き続けた。



横浜デート^^;
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